NHK大河ドラマ『青天を衝け』を見て、渋沢栄一研究に長く携わる私こと坂本慎一が感想と解説を書きます。
今回は村川絵梨さん演じる渋沢なか(栄一の姉)に、キツネがついた話が取り上げられました。これは後年の栄一が、少々自慢げに語っている内容を元にして、ドラマ向けに広げたお話だと思います。栄一の迷信嫌いは『渋沢栄一一日一訓』にも掲載されています。
極端な人は、どうかすると迷信におちいり、奇跡を主張し、あるいはいかがわしい神を祭るようになるから、注意すべきである。(同書187ページ)
東洋大学の創立者であった井上円了は、宗教を大切にしつつ、宗教と迷信は違う、迷信は打破しなければならないと主張しました。この主張はかなり影響力があったものと見え、福沢諭吉でさえ「私も少年のころに迷信を打破してやった」と、あとになってドヤ顔で語っています。ドラマでは、姉を大切にする、きれいな話にまとまって良かったです。
また、安政の大地震で渡辺いっけいさん演じる藤田東湖が亡くなりました。本物の徳川斉昭と竹中直人さんが似ていると話題になっていますが、そういえば藤田東湖といっけいさんも似ているような気がします。
東湖は幕末の志士たちにとってカリスマ的な学者であり、死後もいたるところで「自称・藤田東湖の弟子」が出没したくらいでした。「藤田東湖の書」と言われるニセ物も、そうとう広く出回ったそうです。いっけいさんは、アニメ「おしりたんてい」でナレーションと子犬の警察署長の声も担当されています。子供向けのアニメから幕末のカリスマ学者まで演じるいっけいさんの芸域の幅の広さは、おしりたんていの顔の幅より広いです。
徳川慶喜は、ドラマではまだ活躍らしい活躍はありませんが、評価が非常に難しい人物です。よく政治家は「のちの歴史家に評価をゆだねる」と言います。私は「そんな勝手なこと言わないでください」といつも思っています。「のちの歴史家」をやっているわれわれだって、人を評価するのは難しいのです。
ドラマでは後年の栄一が語る慶喜像に沿っているのか、どこかひょうひょうとしています。くれぐれも劇中で草彅剛さんに「のちの歴史家に~」なんて言わせないよう、今からお願いしておきます。
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